所得税や住民税の減税制度のひとつである雑損控除についてまとめてみました。災害などに遭った人はおさえておきましょう。
雑損控除とは?
資産に損害があったときに適用できる
1 雑損控除の概要
災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合等には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを雑損控除といいます。国税庁 No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1110.htm
簡単に言うと、災害などで資産や金品に損害や損失があったときに税金の優遇を受けるという制度です。平成30年に生じた損害や損失は平成30年から最大3年間にかかる税金が対象となります。
対象となる損害や損失
対象となる損害や損失は大きく3つになります。
- 災害
- 盗難
- 横領
思わぬ費用や損害も雑損控除の対象となることがあります。詳しくはこちらのページでまとめています。
対象となる資産
雑損控除の対象となるのは「生活に通常必要な資産」に限られます。
- 居住用の家屋、ガレージ、塀、ベランダ
- 日常で使用する自家用車、バイク
- 家具、衣服、生活家電
- 生活用の現金
- 1点30万円以下の貴金属、書画、骨董美術品、腕時計
- お墓、墓石、仏壇、仏具
対象とならない資産
生活用途から外れるものや事業用の資産は対象にはなりません。
- 別荘やリゾートマンション
- 賃貸用物件、事業用の資産
- 1点30万円を超える貴金属、書画、骨董美術品
- 趣味や娯楽のための自家用車、バイク
ただし、事業用の資産が損害を受けた場合は、事業の必要経費に入れることができます。
家族が所有する資産もOK
所有者は本人だけでなく、生計を一にする1総所得金額等が38万円以下の配偶者や親族2の資産も対象になります。
総所得金額等38万円以下とは、簡単に言うと、年末調整や確定申告で扶養控除や配偶者控除が適用できるということです。一緒に住んでいても、収入があり扶養控除や配偶者控除の対象にならない家族が所有する資産は雑損控除の対象にはなりません。各々で適用を受ける必要があります。
控除額の計算方法
控除額を求めるには、まず災害や盗難の損害金額を計算します。
損害金額
次の3つの金額の合計が損害金額です。損失を受けた後にかかる金額も対象となります。
- 資産の損失額
- 災害関連支出
- 盗難や横領の原状回復費
一つずつ説明します。
資産の損失額
次のような計算で求めます。
計算式
損害額、損失額の計算は次のどちらかを選んで計算します。
- 直前の時価 - 直後の時価
- 直前の簿価 - 直後の時価
盗難や横領では「直後の時価」はゼロになるため、「直前の時価(簿価)」が損害額になります。
災害関連支出
災害関連費用とは、災害によって発生した次の金額です。
- 損壊した住宅や家財の取壊し費用、除去費用
- 災害が止んだ日から1年以内に支払った次の費用
・土砂等の除去費用
・住宅や家財の現状復旧費用
・住宅や家財の損壊を防止するための費用 - 住宅や家財の被害の拡大や次なる発生を防ぐための措置を行うための費用
盗難や横領の原状回復費
盗難や横領に遭った場合は、その資産の原状回復費用も対象になります。
保険金や賠償金を差し引く
3つの損害金額に対して保険金や損害賠償金を受け取った場合は、その額を差し引いた実質的な負担額が対象となります。
保険金や損害賠償金が損害金額を上回った場合は、損害金額はゼロになります。
計算式
上で求めた「損害金額」と「災害関連支出」の金額から控除額を計算します。
計算式
控除額は以下のいずれか大きい金額(盗難や横領などで「災害関連支出」がない場合は、上段の計算式になります。)
- 損害金額 - 総所得金額等 × 10%
- 災害関連支出 - 5万円
引ききれない控除額は翌年以降3年間繰り越せる
雑損控除には限度額はありません。そのため、損害金額が大きいと所得に引ききれない部分が発生します。この場合、引ききれない部分は翌年以降3年間に繰り越すことができ、その翌年以降の所得から差し引くことができます。
住民税も同じ
控除額の計算は住民税の雑損控除も同じになります。
災害の場合は災害減免法とどちらかの適用
災害によって住宅や家財に損害があったときは、「災害減免法」という制度を受けることができます。
災害減免法と雑損控除は一緒に適用を受けることはできません。それぞれ試算を行ってより大きく税金を減らせる方を選択しましょう。
雑損控除の適用を受ける方法
確定申告で手続きを行うことによって適用が受けられます。
確定申告をする
損失や損害を受けた翌年の2月3月ごろに確定申告書を作成して税務署に提出します。申告書第一表と第二表に必要事項を記入することによって適用を受けることができます。
領収書が必要になる
災害関連支出がある場合には、その支出の領収書を確定申告書と一緒に提出しなければなりません。盗難や横領であれば警察が発行した書類を添付しましょう。
資産の損失額を証明する書類は提出しなくても問題ありませんが、必ず根拠が示せるようにしておきましょう。
住民税も自動的に減税される
確定申告のデータは、自動的に住んでいる市区町村の役所に送られます。役所はそれに基づいて住民税の計算を行うため、確定申告を行えば、所得税だけでなく住民税の雑損控除も受けたということになります。
繰り越した場合は翌年も確定申告
雑損控除を翌年以降に繰り越した場合は、翌年以降も確定申告をしなければなりません。
年末調整では受けられない
生命保険料控除や地震保険料控除は年末調整でも適用を受けることができますが、雑損控除は年末調整で適用を受けることができません。
適用を受けるには会社員の人であっても確定申告をする必要があります。
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